Photo: Ayako Miyamura
新しい絵本ができた。
これはどんな絵本かをひとことで説明するのはむずかしい。
ひとはだれでも子どものころに、なにかに夢中になって、それを追っているうちにどこかに、誰も知らないような場所に迷い込んだりするのではないか。
あるいは焦燥感に駆られて走ったり、家に帰っても図鑑を飽きずにめくったりする。
無限のように長く感じた、季節の一周りを経て何かに気づく。(季節って残酷だ。学び、注視しないひとを素通りする!)
そしてそれは、そういうことはおとなになった今にしてみればぜんぶ夢だったかもしれないけれど、手触りだけは残っているのだ。
そして気になることの数々が気になり眠れないのでその子は学ぶということをはじめるかもしれない。
学ぶということは興味のままにぐいぐい進んでいくことで、つまり学ぶということは超簡単に言うと、夢中になるということ。
時に追われるのではなく、自主的に。英語で自主的にはspontaneoslyって言う。音感が可愛くてあるとき覚えてしまった単語だ。「のびのび」っていう意味もある。「無意識的に」とか。なかなか深い。
この絵本には、劇的なクライマックスはないけれど、わたしが大事にしたいと思っていながら、でも表現するのは難しそうで、わざわざ描いて(書いて)来なかったことがたくさん入っている。それが絵本に残せたということが個人的にとても嬉しいことだった。
ここまで書いて忘れていたけど、「りんご」のこと。
弘前の車窓から見えたりんごの輝きの美しさに衝撃を受けたことがあり、思えばあの体験がずっと影響しているかもしれない。
果物の品種の多種多様について。これについても驚き、言いたいことがたくさんあって、ぜひ興味を持ってもらいたかった。
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そもそもの、この絵本づくりのはじまりは京都大学の三成寿作先生からコンタクトをいただいたことがきっかけだった。
ゲノム編集の時代に、生命についてどういう問いかけができるかというような、自分の身の丈を遥かに超えたお題をいただいて、相当困った。
たくさんの先生が関わってビッグプロジェクトになった。でもそんなたくさんの先生がみんな面白がってくださった。そうして最適解を探す旅に辛抱強く付き合っていただいて、絵本の案ができたのだった。
出版社が決まってからは、素晴らしい編集者が二人もつき、丁寧にこうして絵本に仕上げることができた。本当に奇跡のようなことだ。
「トラタのりんご」
2023年3月16日
岩波書店: 刊 1870円
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