12/31/2018

31.Dec

12月31日。自分語り。
今年は僕にとって本の年だった。

本のかみさまが舞い降りてきて、ぼくを締め切りでぐるぐる巻きにした。
そのおかげで多くの本に関わることができた。

素晴らしい詩集やエッセイ本、食、児童文学など。
そして数々の街を彩る雑誌たち。本ではないけれどお酒のラベルも描いた。
仕事場の本は増え続けるけれど、見本誌ってポストに届くと嬉しい。見本酒はまだですか?

今年は忘れられない三つの本を出すことができた。

一つは「窓から見える世界の風」。
世界を旅するように、住むように。
窓から目には見えない風を眺める。
福島あずささんの解説で風の詳しくを識り、絵で空想旅行を。
こんな本を作ってしまっていいのだろうか?というくらい自由で、好きで、とても楽しみながら作ることができた本。

もう一つは「ぼくとたいようのふね」。
闇と光を前半と後半でおおきく対比させながら船で行く旅の絵本。
この本でもう絵本と決別してもいいかなあと思うくらいやり切った。
というのも、図らずもぼくの過去の絵本の要素が少しづつ集まったような総集編のような本になったからだ。
でもだからこそ、みたことがない新しい絵本を作りたいという思いが当のこの絵本からもあふれている。頑張った自分。
いま、次の絵本の絵を描いている。

そしてもう一つは、つい最近の「ことばの生まれる景色」。
この青い本は時代時代で読まれ方が変わっていくだろう本だと思うので、それをみてみたいと思う。この本を売って行きたい。でもぼくは何もできないので原画展をひらいてもらって話をしに行く。来年はあちこちに行きたい。
大晦日の今もその展示のためのマット切り中。

この3冊をほぼ同時期に出せたことが本当に感慨深い。
本屋さんがたくさん応援してくれた。今までなかったことだけど本屋さんからお手紙までいただいた。とても嬉しい。
そしてもちろん本を手に取ってくれる人たちがいる。
皆さんに深い感謝を。

こういうことを思うと熱量が上がっていく一方なので、来年は少し落ち着いて静かなパッションで絵を描きたいと思う。
本も作らせていただけそうなのでいいものにして発表できたら嬉しい。

今年はブラジルの国立博物館の所蔵品が火事で焼けてしまったという事件があった。
その記事を読んだ時に不意にとても落ち込んでしまったのを覚えている。
遠い自分とは無関係な、その瞬間まで知らなかったもののはずなのに、記憶の宿った大切なモノが永遠に失われるとわかった途端に悲しくて胸が痛くなるのだ。
これは一体どういうことなんだろう?
そのようなことを考えながら来年は絵を描いてみたいと思う。

12/29/2018

新版「野の道」と「狭い道」








「火を焚きなさい」に続き、再び山尾三省さんの本に絵を描かせていただいた。
「野の道」と「狭い道」の復刻新版。
この仕事の絵のことを考えていたころ、ランテルナムジカのツアーがあって、立てつづけに屋久島と盛岡に行った。しかも屋久島から盛岡に直接の移動だった。
この2冊を繋ぐような展開にすごく意味があるような気がして、道を味わいながら歩いた。
屋久島のTabiraさんがいつも連れて行ってくれる「クリスタル岬」へと続くなだらかな下り道が「狭い道」のモデル。あちこちに生えているクワズイモの葉が好きだ。

「野の道」の方は「詩人の道」を描いたので現実離れしている。賢治の好きだったオリオンとかエンタシス(ギリシャの柱)とか。
でもやっぱり盛岡の中津川の道を思い浮かべながら描いた。

新版 野の道 ―宮沢賢治という夢を歩く 解説:今福龍太
新版 狭い道 ―家族と仕事と愛すること 解説:早川ユミ
2018年 新泉社刊



12/22/2018

22.Dec

テラコッタの板に描いた古いタイルのような絵を作りたい!と思い立ち半年。
夏の間に粘土を練って型にとっていたそれに絵付けすることができた。
これから窯入れ。僕は広島に帰ってしまうけど。
焼き物素人の僕のイメージする焼き方や技術的な関門をリサーチしてくれた太田志帆さん。感謝しかない。
もし間に合うなら来年の個展で発表する予定。

12/16/2018

雑誌挿絵の仕事



現在発売中の 「+1 LIVING winter 2019」(主婦の友社) に油彩による部屋のとびら絵。巻頭ページにはランテルナムジカの舞台としてお世話になった福岡のpapparayrayのデザートが掲載されていたのが嬉しい。また高橋ヨーコさんの写真やマーガレットハウエルさんのセカンドハウスなど掲載されており、読み応えがある雑誌だった。

「ミセス1月号」(文化出版社) 水晶玉子 × 「ミセス」オリエンタル 占星術 怖いくらいに当たるらしい水晶玉子さんのオリエンタル 占いとじこみ別冊冊子。
絵はオリエンタルな西洋と東洋のミックスモチーフでたくさん遊ばせていただいた。
表紙ほか各ページに多数のカット。

どちらも気合い十分で描かせていただいた今年の最後を飾る挿絵仕事。
ご覧いただけたら嬉しい。

12/14/2018

「ことばの生まれる景色」

本を手に持つ人の姿は美しい。
名古屋の本屋さんの名でもあるAndré Kertészの"on reading"は読む人の姿が集められたすてきな写真集。
僕は本の挿絵を描くとき、読む人たちの美しい佇まいに似合う本の絵にしたいなあという気持ちになる。言葉と人が出会っているよい瞬間にふさわしい絵が描けたら。

そして本をつくる人々もまた当然本を手に持つ。
その努力の大変なところは時間と資金の限られた中、その本が「他のどこにもない一冊」になるようにすること。

そうやってたくさんの名著が刊行されてきた。
Titleの二階での展覧会「ことばの生まれる景色」では、これらの本に捧げる一枚一枚の絵を描かせていただきながら、考えていたのはその一つ一つの本のオリジナリティに自分はどう応えるかということだけだった。

展覧会が回を重ね、これを書籍化しようという話をいただいた時、僕はひそかにこう思っていた。
本を紹介する単なるガイド・ブックではなく、この本そのものが「どこにもない一冊」にしたい。
そうすることこそが、この本で掲載させていただいたすばらしい本たちへの最大限の敬意になるのではないだろうか。

そのことを僕は(言葉にしたらいっさいが駄目になるような気がして)誰にも言わなかったのに、本の制作は自然にそうなるように進んでいった。
どこかで大きく転換が起こったような気がする(本当にドラマチックだった)。

まず、絵の点数は相当数あるので、掲載はモノクロ印刷になると思っていたのに、試し刷りで送られてきたのはすべてカラー刷りだった。それもごく美麗な。いったいどれだけのお金がかかっているのかと心配になった。本を出してくれるナナロク社という出版社がここまで勝負に挑んでいることに気が引き締まった。

次に、辻山さんの文章は展覧会のキャプションとしてすでにできていたのに、すべてゼロからリライトされ、とても深みのある個人史をも交えた文章になって戻ってきたことにも驚いた。辻山さんが文章を書くことに目覚めた瞬間に立ち会っているような気がした。(辻山さんが将来さらに名著述家になったらこの本のおかげです。)

そしてもう一つ、ブックデザインがまた素敵。デザイナーの鈴木千佳子さんがここまで深く考えられるのかというほどのデザインをしてくれた。僕がとても気に入っているのは開いてすぐのクラフト紙。タイトル・ブルーと見事に対応して、金色のよう。クラフト紙は本の現場にとても関係が深い紙なのでそれも意味深く感じる。本文のレイアウトはさらにすごい。

そしてそれらをまとめるナナロク社の編集の川口恵子さんの頑張り。上にどこかで転換が起こったと書いたそのどこかとはきっとある日の川口さんの心の中なのだろう。また前のブログにも書いたけれど川口さんから校閲や印刷の現場でも相当頑張ってくれたと聞いた。
出来上がった本を実際に手に取理、それがわかった。

これはみんなで作った本です。
奇跡のような「どこにもない一冊」。


「ことばの生まれる景色」

文:辻山良雄 画:nakaban 装丁:鈴木千佳子 版元:ナナロク社 
P264オールカラー 四六判ハードカバー 2018年12月刊

〈本書で紹介した本〉

『旅をする木』星野道夫/『ミラノ 霧の風景』須賀敦子/『よいひかり』三角みづ紀/『悲しき熱帯』レヴィ=ストロース/『独り居の日記』メイ・サートン/『苦海浄土』石牟礼道子/『自選 谷川俊太郎詩集』谷川俊太郎/『造形思考』パウル・クレー/『夏の仕事』永井宏/『尾崎放哉全句集』尾崎放哉/『遠野物語』柳田国男/『百年の孤独』G・ガルシア=マルケス/「森の兄妹」『あひる』今村夏子/『フラニーとゾーイー』J・D・サリンジャー/「犬を連れた奥さん」『かわいい女・犬を連れた奥さん』チェーホフ/『城』カフカ/『1973年のピンボール』村上春樹/『山之口貘詩集』山之口貘/『八月の光』フォークナー/『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ/『色彩論』ゲーテ/「なめとこ山の熊」『注文の多い料理店』宮沢賢治/『楢山節考』深沢七郎/『ジョルジョ・モランディの手紙』ジョルジョ・モランディ/『おやすみなさい おつきさま』マーガレット・ワイズ・ブラウン/『小さな家』ル・コルビュジエ/『パタゴニア』ブルース・チャトウィン/『さようなら、ギャングたち』高橋源一郎/『方丈記』鴨長明/『若き日の山』串田孫一/『犬が星見た』武田百合子/『夕べの雲』庄野潤三/『ビニール傘』岸政彦/『津軽』太宰治/『門』夏目漱石/『芝生の復讐』リチャード・ブローティガン/『ホテル・ニューハンプシャー』ジョン・アーヴィング/『細雪』谷崎潤一郎/『声めぐり』『異なり記念日』齋藤陽道/『モモ』ミヒャエル・エンデ 


刊行イベント告知! > Title

12/11/2018

11. Dec




ちょっとこれは違うなーという絵たち。それを貼って眺めていたらこれはこれでいいのではと思うようになった。自分に甘いだろうか。

12/02/2018

12月。もうすぐ。



*テスト刷りを巻いた見本。

本屋Titleの辻山さんとの共著「ことばの生まれる景色」が12月の中頃発売予定。
Titleでは先行発売。

デザインは鈴木千佳子さん。編集はナナロク社の川口恵子さん。
ことば、絵、デザイン、校閲、印刷。
自分が遠くから聞いているだけでも気が遠くなるような職人たちの本づくりへの気合い十分に込められているこの一冊。
たくさんの人に届いてほしい。届けていきたい。
また近く続報を。