2018年12月14日金曜日

「ことばの生まれる景色」

本を手に持つ人の姿は美しい。
名古屋の本屋さんの名でもあるAndré Kertészの"on reading"は読む人の姿が集められたすてきな写真集。
僕は本の挿絵を描くとき、読む人たちの美しい佇まいに似合う本の絵にしたいなあという気持ちになる。言葉と人が出会っているよい瞬間にふさわしい絵が描けたら。

そして本をつくる人々もまた当然本を手に持つ。
その努力の大変なところは時間と資金の限られた中、その本が「他のどこにもない一冊」になるようにすること。

そうやってたくさんの名著が刊行されてきた。
Titleの二階での展覧会「ことばの生まれる景色」では、これらの本に捧げる一枚一枚の絵を描かせていただきながら、考えていたのはその一つ一つの本のオリジナリティに自分はどう応えるかということだけだった。

展覧会が回を重ね、これを書籍化しようという話をいただいた時、僕はひそかにこう思っていた。
本を紹介する単なるガイド・ブックではなく、この本そのものが「どこにもない一冊」にしたい。
そうすることこそが、この本で掲載させていただいたすばらしい本たちへの最大限の敬意になるのではないだろうか。

そのことを僕は(言葉にしたらいっさいが駄目になるような気がして)誰にも言わなかったのに、本の制作は自然にそうなるように進んでいった。
どこかで大きく転換が起こったような気がする(本当にドラマチックだった)。

まず、絵の点数は相当数あるので、掲載はモノクロ印刷になると思っていたのに、試し刷りで送られてきたのはすべてカラー刷りだった。それもごく美麗な。いったいどれだけのお金がかかっているのかと心配になった。本を出してくれるナナロク社という出版社がここまで勝負に挑んでいることに気が引き締まった。

次に、辻山さんの文章は展覧会のキャプションとしてすでにできていたのに、すべてゼロからリライトされ、とても深みのある個人史をも交えた文章になって戻ってきたことにも驚いた。辻山さんが文章を書くことに目覚めた瞬間に立ち会っているような気がしたから。(辻山さんが将来さらに名著述家になったらこの本のおかげです。)

そしてもう一つ、ブックデザインがまた素敵。デザイナーの鈴木千佳子さんがここまで深く考えられるのかというほどのデザインをしてくれた。僕がとても気に入っているのは開いてすぐのクラフト紙。タイトル・ブルーと見事に対応して、金色のよう。クラフト紙は本の現場にとても関係が深い紙なのでそれも意味深く感じる。本文のレイアウトはさらにすごい。

そしてそれらをまとめるナナロク社の編集の川口恵子さんの頑張り。上にどこかで転換が起こったと書いたそのどこかとはきっとある日の川口さんの心の中なのだろう。また前のブログにも書いたけれど川口さんから校閲や印刷の現場でも相当頑張ってくれたと聞いた。
出来上がった本を実際に手に取理、それがわかった。

これはみんなで作った本です。
奇跡のような「どこにもない一冊」。


「ことばの生まれる景色」

文:辻山良雄 画:nakaban 装丁:鈴木千佳子 版元:ナナロク社 
P264オールカラー 四六判ハードカバー 2018年12月刊

〈本書で紹介した本〉

『旅をする木』星野道夫/『ミラノ 霧の風景』須賀敦子/『よいひかり』三角みづ紀/『悲しき熱帯』レヴィ=ストロース/『独り居の日記』メイ・サートン/『苦海浄土』石牟礼道子/『自選 谷川俊太郎詩集』谷川俊太郎/『造形思考』パウル・クレー/『夏の仕事』永井宏/『尾崎放哉全句集』尾崎放哉/『遠野物語』柳田国男/『百年の孤独』G・ガルシア=マルケス/「森の兄妹」『あひる』今村夏子/『フラニーとゾーイー』J・D・サリンジャー/「犬を連れた奥さん」『かわいい女・犬を連れた奥さん』チェーホフ/『城』カフカ/『1973年のピンボール』村上春樹/『山之口貘詩集』山之口貘/『八月の光』フォークナー/『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ/『色彩論』ゲーテ/「なめとこ山の熊」『注文の多い料理店』宮沢賢治/『楢山節考』深沢七郎/『ジョルジョ・モランディの手紙』ジョルジョ・モランディ/『おやすみなさい おつきさま』マーガレット・ワイズ・ブラウン/『小さな家』ル・コルビュジエ/『パタゴニア』ブルース・チャトウィン/『さようなら、ギャングたち』高橋源一郎/『方丈記』鴨長明/『若き日の山』串田孫一/『犬が星見た』武田百合子/『夕べの雲』庄野潤三/『ビニール傘』岸政彦/『津軽』太宰治/『門』夏目漱石/『芝生の復讐』リチャード・ブローティガン/『ホテル・ニューハンプシャー』ジョン・アーヴィング/『細雪』谷崎潤一郎/『声めぐり』『異なり記念日』齋藤陽道/『モモ』ミヒャエル・エンデ 


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2018年12月11日火曜日

11. Dec




ちょっとこれは違うなーという絵たち。それを貼って眺めていたらこれはこれでいいのではと思うようになった。自分に甘いだろうか。

2018年12月2日日曜日

12月。もうすぐ。



*テスト刷りを巻いた見本。

本屋Titleの辻山さんとの共著「ことばの生まれる景色」が12月の中頃発売予定。
Titleでは先行発売。

デザインは鈴木千佳子さん。編集はナナロク社の川口恵子さん。
ことば、絵、デザイン、校閲、印刷。
自分が遠くから聞いているだけでも気が遠くなるような職人たちの本づくりへの気合い十分に込められているこの一冊。
たくさんの人に届いてほしい。届けていきたい。
また近く続報を。

2018年11月18日日曜日

装画「針と糸」



小川糸さんの新刊「針と糸」(毎日新聞出版)の絵を描かせていただいた。
装丁は芥陽子さん。

本文にも多くのカットがあるのだけど、ベルリンに行った時のことを思い出しながら描いた。
行っておいてよかった。
小川さんは飛行機の機内誌の取材の仕事がきっかけでドイツに移住されたそうだ。
もしかしてあの雑誌かな?

2018年11月15日木曜日

15.Nov

水彩画の連作を描きたいので、紙を知ろうとしまいこんでいたいろんなブロックパーパーをめくる。すると二年前の下書きが出てきた。
あまり面白くなさそうな下書きだったので投げ出したらしい(コラッ)。
けどそこは頑張りでなんとかならんかと塗っていく。

言いわけ、策略、ごまかし、遊んでいるふり。
絵を描くときはそんなことで頭がいっぱいだ。
「自由な発想ができて羨ましいですね」
なんて言ってくれる人もいるけれど、そこは全部計算してるからむしろ自由ではないほうなのではないのか。

でも絵の具のにじみは計算できない。
ただ、プロの水彩画家さんはある程度画面に起こる現象を計算しながら描いているらしい(いろんな先生がたのブログを読んだ。)

水彩画で、絵の具を混ぜる水の量を失敗したときに現れるいびつなにじみは「カリフラワー」と言うのだそうだ。
確かに似ている。
予期せぬカリフラワーが絵ににょきにょきと生えてくると思うと楽しくなってくる。


2018年11月7日水曜日

装画「ご飯の炊き方を変えると人生が変わる」


表紙画を描かせていただいた。(カバーをとっても可愛い)
よそったご飯の、その繊細なトーンの日陰部分に青と黄色をごくわずかに差しながら描いていった。描いているときは凛とした時間だった。

本書には新井薬師の和食店「柾」店主による柾式炊飯法というあまり知られていないご飯の炊き方のことが書かれている。
「おいしいとはどういうことか」という題名の最終章があって、読んでいるとすっきりいい気分になった。
いい本に関わることができて嬉しい。

2018年11月2日金曜日

「風の声」

サウダージ・ブックスのwebマガジン「風の声」
https://www.saudadebooks.com/blog/kazenokoe_201811_mokuji

サウダージ・ブックス復活。
数年前、黒島伝治の本を作っていた頃の淺野さんは「僕は文章をかくことはないです」ってやや決意も強めに語っていたので、その言葉とは反対にいつか文章を書く人だろうなと思っていた。
それも旅と詩の話を。
淺野さんの文章はOur Poetryで読める。
コップの絵はどいちなつさんの詩を読み、新しく描かせていただいた。